JFシアター(12月) テーマ:殺人

 

2019年12月6日(金)

『Wの悲劇』 1984年   108 分   監督:澤井信一郎

・出演:薬師丸ひろ子/三田佳子/世良公則/高木美保/三田村邦彦/仲谷昇/蜷川幸雄

 

劇団「海」の研究生・三田静香は、女優としての幅を広げるため、先輩の五代淳と一晩過ごした。翌朝彼女は、不動産屋に勤める森口昭夫という青年と知り合う。「海」の次回作公演が、本格的なミステリーに加え、女性であるがゆえの悲劇を描いた『Wの悲劇』と決定した。キャストに、羽鳥翔、五代淳と劇団の二枚看板を揃え、演出は鬼才で知られる安部幸雄である。そして、事件全体の鍵を握る女子大生・和辻摩子役は、劇団の研究生の中からオーディションによって選ぶことになった。オーディション当日、静香の親友・宮下君子は、芝居の最中に流産しかかり病院にかつぎ込まれた。子供を産むと決心した彼女を見て、静香は自分の生き方は違うと思う。摩子役は、菊地かおりに決定した。静香には、セリフが一言しかない女中役と、プロンプターの役割が与えられた。意気消沈して帰宅した彼女のもとに花束を抱えて昭夫がやって来た。静香がオーディションに受かるものと信じて祝福に来たのだ。彼の楽観さにヒステリーを起こす静香だったが、結局、二人は飲みに行き、その晩、静香は昭夫の部屋に泊まった。翌朝から、彼女は気分を切り変え、全員の台詞を頭に入れ、かおりの稽古を手伝うなど積極的に動く。一方、昭夫はある空家に静香を連れてくると、ここで一緒に住もう、結婚しようと申し込むが、静香は女優への夢を捨てる気になれなかった。大阪公演の初日の幕があがった。舞台がはねた後、誰もいない舞台で摩子を演じている静香を見た翔は、声をかけ小遣いを渡す。彼女にも静香と同じ時期があったのだ。その夜、お礼に翔の部屋を訪ねた静香は、ショッキングな事件に巻きこまれる。翔の十数年来のパトロン・堂原良造が、彼女の部屋で突然死んでしまったというのである。このスキャンダルで自分の女優生命も終わりかと絶望的になっていた翔は、静香に自分の身代りになってくれ、もし引き受けてくれたら摩子の役をあげると言い出す。最初は首を横に振っていた静香だったが、「舞台に立ちたくないの!」という一言で、引き受けてしまった。執拗なマスコミの追求も、静香はパトロンを失った劇団研究生という役を演じて乗り切った。翔は、かおりとの芝居の呼吸が合わない、と強引に彼女を降ろし、東京公演から静香に摩子役を与えた。静香の前に、事件のことを知った昭夫が現われた。「説明しろ」と詰めよる彼に静香は一言もなかった。東京公演。舞台袖で震えていた静香に、翔の叱咤が飛ぶ。静香の初舞台は、大成功をおさめた。幕が降りた後も鳴りやまぬ拍手と、何度も繰り返されるカーテン・コールが女優誕生を祝していた。客席の最後列では、精一杯拍手を送る昭夫の姿もあった。劇場を出た静香は、レポーターに囲まれるが、昭夫の姿を見つけ駆けよろうとする。そこに、事件の真相を知ったかおりがナイフを手に現われ、静香めがけて飛びこんできた。静香をかばい刺された昭夫は、救急車で運ばれた。数日後、引越しをするためアパートを出た静香は、昭夫に連れられてきた空家に立ち寄る。そこには、空家を他の契約者に譲った昭夫がいた。もう一度二人でやり直そうという彼に、静香は、そうしたいけど今のボロボロの私が、昭夫に甘えてもっと駄目になってしまうと言う。そして、芝居を続け、ちゃんと自分の人生を生きていくために一人でやり直すからと、涙をこぼしながら微笑んで去って行った。昭夫はその背中に大きな拍手を送るのだった。

 


 

  

 

2019年 12月13日(金)

『誰も守ってくれない』 2008年 118分 監督:君塚良一

・出演:佐藤浩市/志田未来/柳葉敏郎/石田ゆり子/佐々木蔵之介

 

親子4人で暮らしていた船村家の幸福は、未成年者の長男が小学生姉妹殺人事件の容疑者として逮捕されたことで無惨にも崩れていく。衝撃を受ける両親と沙織(志田未来)に群がるマスコミと野次馬たち。一家の保護のため、東豊島署の刑事である勝浦(佐藤浩市)と三島(松田龍平)は船村家に向かう。容疑者保護マニュアルに沿って船山夫婦は離婚、改めて妻の籍に夫が入ることで苗字が変わる。中学生の沙織も就学義務免除の手続きを取らされて、同い年の娘を持つ勝浦が保護することになる。皮肉にも勝浦の家庭も崩壊寸前の状況で、その修復のために娘の美奈が提案した家族旅行の予定もこの事件によって反故になろうとしていた。マスコミの目を避けるため逃避行を続ける勝浦と沙織だが、どこへ逃げても居所をつきとめられる。インターネットの匿名掲示板では、船村家に関する個人情報が容赦なく晒されていった。心労のため、保護の目をかいくぐって自殺してしまう母。それを知った沙織は、ますます錯乱する。勝浦がたどりついたのは、伊豆のペンションだった。主人である本庄圭介(柳葉敏郎)と妻の久美子(石田ゆり子)のひとり息子は、3年前に勝浦が担当する事件で殺害された。勝浦の失態は、自身と本庄夫婦の心に大きな傷を残していた。秘密裡に移動しているつもりだった2人だが、その行動はネットに依存する野次馬たちの悪意に追跡されていた。勝浦は沙織を匿う真相を知った圭介からいったん激しく拒絶させるが、語り合うことで彼の本心に触れる。一方、いたたまれなくなった沙織はペンションから恋人の達郎(冨浦智嗣)と一緒に逃亡するが、達郎の裏切りに合う。そして、ネット依存者たちの罠に嵌められるが、勝浦によって救出された。翌朝、駆けつけた三島たちによって、ようやく勝浦は解放された。沙織も最後には心を開いてくれた。ペンションを去りながら、娘の美奈に電話をかける勝浦だった。

 


 

 

 

2019年12月20日(金)

『事件』 1984年   108 分   監督:野村芳太郎

・出演:大竹しのぶ/松坂慶子/永島敏行/芦田伸介/丹波哲郎/渡瀬恒彦/乙羽信子

 

神奈川県の相模川沿いにある土田町の山林で、若い女性の刺殺死体が発見された。その女性はこの町の出身で、新宿でホステスをしていたが、一年程前から厚木の駅前でスナックを営んでいた坂井ハツ子であった。数日後、警察は十九歳の造船所工員・上田宏を犯人として逮捕する。宏はハツ子が殺害されたと推定される日の夕刻、現場付近の山道を自転車を押しながら下りてくるのを目撃されていた。警察の調べによると、宏はハツ子の妹、ヨシ子と恋仲であり、彼女はすでに妊娠三ヵ月であった。宏とヨシ子は家を出て横浜方面で暮らし、子供を産んで、二十歳になってから結婚しようと計画していた。しかし、ハツ子はこの秘密を知り、子供を中絶するようにと二人に迫った。ハツ子は宏を愛し、ヨシ子に嫉妬していた。その頃ハツ子には宮内というやくざのヒモがいた。彼女は宮内と別れて、宏と結婚し、自分を立ち直らせたいと思っていたのだった。ハツ子が親に言いつけると宏に迫った時、彼はとっさに登山ナイフをかまえて彼女を威嚇した。宏が一瞬の悪夢からさめ気がついた時、ハツ子は血まみれになって倒れていた。上田宏は逮捕され、検察側の殺人、死体遺棄の冒頭陳述から裁判が開始される。果たして本当に宏が殺人を犯したのかという疑問を含め、裁くもの裁かれるものすべてを赤裸々にあばきながら、青春そのものが断罪されていく。