JFシアター(4月) テーマ:生活の質

 

 

2019年4月5日(金)

『泥の河』 1981年 105分 監督:小栗康平

・出演:田村高廣、藤田弓子、朝原靖貴、加賀まりこ、柴田真生子 他

 

大阪安治川河口を舞台に、河淵の食堂に住む少年と、対岸に繋がれた廓舟の姉弟との出会いと別れを描く。第十三回太宰治賞を受賞した宮本輝の同名の小説を映画化したもので、脚本は人気TVシリーズ「金八先生」の重森孝子、監督は浦山桐郎監督に師事し、これが第一回作品となる小栗康平、撮影は「泣く女」の安藤庄平がそれぞれ担当。

 


 

 

 

 

2019年4月19日(金)

『無能の人』 1991年 107分 監督:竹中直人

・出演:竹中直人、風吹ジュン、大杉漣、三浦友和、原田芳雄 他

 

多摩川の河原で石を売る男とその家族を中心に、現代社会から落ちこぼれた人々をユーモラスかつ暖かく描くドラマ。つげ義春原作の同名漫画の映画化で、脚本は「われに撃つ用意あり」の丸内敏治が執筆。監督は本作が第一回作品となる俳優の竹中直人。撮影は「さわこの恋」の佐々木原保志がそれぞれ担当。

 


 

 

2019年4月26日(金)

『死の棘』 1990年 107分 監督:小栗康平

・出演:松坂慶子、岸部一徳、木内みどり、山内明、中村美代子 他

 

島尾敏雄の同名小説の映画化で、夫婦の愛のかたちを痛切なきびしさで描く、「伽椰子のために」(84)に次ぐ小栗康平の監督第三作。

 

1955年頃、東京の一隅に住むミホとトシオは、結婚十年、六歳の伸一と四歳のマヤの二人の子がいる。夜間高校で非常勤講師をしながら小説を書いているトシオの情事が発覚して、ミホの果てしない詰問が続く。ミホは精神の平衡を失うときがあり、トシオの情事はその危うさをさらに不安定なものにした。第二次大戦末期の1944年、海軍の震洋特別攻撃隊長として奄美大島の加計呂麻島に駐屯していたトシオは、島の娘ミホと恋に落ちた。死を予定されている青年と、出撃の日には自決しようときめていた娘との美しく純粋な恋。しかし、出撃の日を迎えずに敗戦が訪れた。東京での生活は必然とも言える破綻を生む。トシオは邦子との愛を精算し、誠実にミホに尽くす。あるときは転居し、あるときは故郷の田舎に帰ろうとしてミホの精神の安定を望むが、事態は少しも好転しない。トシオは二人の子をミホの故郷の島に送り、精神科の病院に入った彼女に付き添う。社会から隔絶された二人だけの世界でミホの心に落ち着きが戻ったかに見えた。東京小岩の一家の住まいのあたりを人工的に単純化したセットで様式化し、ひたすら夫婦の内面を直視し続ける。美術横尾嘉良。それに対して回想される加計呂麻島の風景は息を呑むほど美しい。撮影は安藤庄平。表現の実験的な大胆さと凝縮された端正さ。ノーメイクで役になりきった松坂のひたむきな演技、岸部の誠実さ。日本映画の質の高さを示した秀作。